高師小僧 (たかしこぞう)

高師小僧とは鉱物の名前です。
愛知県の博物館では多く取り上げられています。




▲高師小僧
 いかにも「小僧」という感じでしょ。

高師小僧はその形状にもっとも大きな特色があります。
大きさは数センチのものから50cmを超えるようなものまで。
中央に穴があいています。



▲高師小僧
 中央に穴があいています。

穴を中心にして年輪のような同心円のような模様が見えます。
その穴は下まで貫通しています。
色は赤土のような褐色。



▲断面
 穴は常に貫通しています。

高師小僧に関してはこちらのHPが極めて詳しいのでぜひご参照ください。
吉田哲郎さんの「高師小僧」HP
とよはし高師小僧フェスタ報告書

以下 自分の勉強のためにまとめてみました。

高師小僧とは

正確に言うと 高師小僧とは鉱物の名称ではありません。
鉱物としては「褐鉄鉱」になるのですが、その独特の形状から一部の褐鉄鉱がこう呼ばれます。
植物の根の回りに鉄の酸化物が付着し成長したものです。
生痕化石(せいこんかせき)として植物の化石とされるときもあります。

豊橋市南部の「高師原」(たかしはら)あるいは「高師ヶ原」(たかしがはら) から産出されたので、こう呼ばれます。
他の地域からも産出されますが、この名前が使われるようです。

北海道名寄・滋賀県別所の高師小僧は国の天然記念物に指定されています。
本家の高師原の高師小僧は愛知県の天然記念物です。

高師小僧の成因

吉田哲郎さんのHPによると
A.鉄細菌が水中の鉄イオンを酸化させ、結果としてできた酸化鉄が植物の根や茎の周りに沈積したという有機説と
B.枯れた根や茎を通じて鉄イオンを含む水が水中に広がり鉄分が沈殿するという無機説
があるようです。

できた時代は40万年前ぐらい。

高師小僧は地下に根を張るように枝状に連続して存在しており、やわらかい土が侵食されると石ころのように地表にゴロゴロとした状態で見つかります。

鬼板と呼ばれる同じく褐鉄鉱の板と同時に産することが多いようです。
浅い沼で繁茂する植物が水上に顔を出し、その底に赤土や泥がたまっている姿は見たことがあると思いますが、おそらくそのような場所で高師小僧は成長したのでしょう。

高師小僧の命名

3つの記述があります。
A.もともと地元で呼んでいた名称を明治28年に東京帝国大学の小藤文次郎が報告した。(緑地公園展示)
B.地元の名前ではなく、明治28年に地質学者の小川琢冶博士によって命名された。(池田芳雄)
C.明治28年に東京帝国大学の小藤文次郎が命名した(久保園達也)

この名称の由来を詳細に調べた方がおられまして(大島クリニックHP)
それによると これらはいずれも間違いで、
 @地元では古くから呼ばれていたもの
 A初出は
   ・明治14年の「高師童(たかしこぞ)」の名称で「高師村誌」
   ・おそらく高師小僧を指す別名の「無名異」は江戸末期の「三河国名所図絵」
  なのだそうです。

「高師」は昔、「高蘆(たかし)」と言われていたようです。
「蘆(あし)」とは植物の「葦(あし)」(ヨシとも呼ぶ)のことです。
「背が高い葦が茂っている地」という想像はできますが、湿地帯は意外と最近まで残っていたのでしょうか。
近くには「芦原」という駅名もあります。
また、豊橋市の高師原には「浜道町字管石(かんせき)」という地名も残っており、この管石というのは高師小僧のことだそうです。
(吉田哲朗さんHP「高師小僧」参照)

高師原

現在でも高師原に行くと造成中の土地で高師小僧を見つけることができます。
今は郊外の工場地帯や大型商業施設がある台地ですが、かつては浅い沼が広がる湿地帯だったのでしょう。

 

▲地表に露頭した高師小僧
 このような状態で石ころのようにころがっています。

豊橋市の高師緑地に行くと、一角にちょっとだけ展示があります。



▲さまざまな形状の高師小僧
 中央に穴があり、そこから同心円上に模様があることは共通しています。

展示解説
豊橋市街地の南部にあたる高師緑地一帯は、高師原と呼ばれる台地を形成している。
このあたりの地面からでてくる樹枝状から人形型の土の固まりを古くから地元では高師小僧と呼んでいた。
東京帝国大学の教授であった小藤文次郎博士は明治28年(1895年)、地質学雑誌に高師小僧について報告している。
高師小僧は鉱物名をさす呼び名ではなく、この地方の方言が全国的に使われるようになった通称名である。
鉱物学の分野では褐鉄鉱にはいる。
褐鉄鉱という鉱物は、主に針鉄鉱からなる鉱物の集合体に対して使われる。
高師小僧は植物の根、茎の周辺に鉄の酸化物が付着する、あるいはそれらの周囲に鉄細菌により水酸化鉄が沈着して形成されるものと考えられている。
高師原台地の高師小僧は昭和32年(1957年)10月4日に県の天然記念物に指定された。

各地の博物館でみる高師小僧

豊橋市地下資源館



▲豊橋市地下資源館での高師小僧展示
 ここの高師小僧はとにかく「でかい」! 
 40cm程度の高さがあります。
 おそらく展示されている高師小僧の中では最大ではないでしょうか



▲巨大な穴
 右下にあるこの高師小僧にも注目。高さは15cmぐらいでしょうか。
 穴のでかさが半端ではありません。  けっこう太い木の根の周囲に発達したものでしょう。

展示解説
「土の中をゆっくり流れる地下水に溶けていた鉄分が、植物の根の周囲に固まったものです。
根は枯れてしまいほとんどのものは中がからになっています。
豊橋の高師原で多く見られ、人形のような形のものがあるので、高師小僧と名づけられました。
これは鉄鉱の一種でほかの地方のものまで同じ名前で呼ばれています。」


愛知県豊橋市 自然史博物館

 

▲自然史博物館での高師小僧の展示
 色はうまく再現してありませんでしたが、地中にある状態での展示は珍しい。

展示解説
高師小僧を含む地層
高師小僧は植物の根や茎に鉄分が付着したあと 植物が腐敗してなくなり、管状の褐鉄鉱を主体とするかたまりとなったもので、形の面白さから「小僧」の名があるようです。
豊橋市の高師原で露出したものが最初に報告されたことから、全国で産出する同種のものが高師小僧と呼ばれています。
この標本は地層を垂直に削った平らな面をはぎとったものです。
地層中に高師小僧が入っているようすがわかります。
産地 豊橋市西幸町浜池緑地内


滋賀県立琵琶湖博物館

滋賀県日野町の高師小僧は国指定の天然記念物。
滋賀県での高師小僧の展示はおそらくここだけです。



▲琵琶湖博物館の高師小僧
 滋賀県蒲生郡日野町別所で産出したものだそうです。



▲断面図
 縞模様がはっきりわかる高師小僧の断面のようす



▲高師小僧の表示
 高師小僧は滋賀県の天然記念物になっていますので、日野市別所にはこのような碑が立っています。

展示説明
高師小僧
「地下水中に溶けている鉄分が植物の根などのまわりに集まり、管状や樹枝状にかたまってできた褐鉄鉱です。
 愛知県の高師ヶ原に産するものが有名で、その形が子供に似ていることがあり、高師小僧と呼ばれます。
 県内では 古琵琶湖層の年度から産出します。」


愛知県東栄町総合文化センター



▲東栄町総合文化センターでの展示
 ダンボール箱に入れられて なんとも手作り感覚。

展示説明
高師小僧
「地下水の中にとけている鉄分が地下の植物の根のまわりに、水酸化鉄(褐鉄鉱)となって沈殿したものです。
 その形は幼児・鳥・魚などを連想させます。
 豊橋の高師原に多く産出し、子供が立っている姿を想像させるので高師小僧の名がついたといわれます。
 管のように中心部がからの部分は、植物の根や茎がとけてなくなったあとです。」


愛知県 やしのみ博物館

愛知県田原市

 

▲大きなものの展示はありませんでしたがなかなかユニークな展示方法

展示説明
高師小僧 渥美半島・天伯原(てんぱくはら)大地産
かっ鉄鉱の団塊で、地下水中の鉄分が植物の根のまわりに固まったものです。
北海道名寄・滋賀県別所の高師小僧は国の天然記念物に指定されています。
「高師」という名は、渥美郡高足村(現・豊橋市高師町)に由来します。


岐阜県中津川市 鉱物博物館





▲中津川市での展示物

展示説明
高師小僧(植物の根をとりまいた褐鉄鉱)
bog iron ore (formed around plant roots)
新生代第四期更新世 愛知県豊橋市 高師原


愛知県新城市 鳳来寺山自然科学博物館





▲鳳来寺山での高師小僧展示
 なかなか大きい立派なものが展示されています

展示説明
高師小僧
豊橋市高師が有名な産地である。


静岡県富士宮市 奇石博物館

ここでは成因無機説をとっているようです。

 

▲富士宮市での高師小僧展示
 ちょっとあるだけですが

展示説明
高師小僧
Limonite Var.
湖沼や大きな川の河口などで沈殿した粘土やシルト層が隆起して陸化して陸地となってから、雨水などによって上層から溶かされて下降してきた鉄分がコロイド状の水酸化鉄として、もと湖岸や河口に生えていたアシやヨシなどの植物遺体の分解によってできたフミン酸に水酸化鉄が吸着し 中空の管状、人形状の奇形を形成するに至った。
愛知県高師ヶ原にたくさん産することから高師小僧の名が出たものである。
京都市伏見区深草谷口町産


兵庫県豊岡市 玄武洞ミュージアム



▲京都市伏見区深草谷口町



▲玄武洞ミュージアムの高師小僧展示
 三重県志摩郡阿児町鵜方産

展示説明
高師小僧
褐鉄鉱 三重県志摩郡阿児町鵜方産
愛知県豊橋市高師原(たかしがはら)で見つけられてこの名が付けられたもので、土中の水に含まれる鉄分である水酸化鉄が草の根の周囲に厚い皮殻として成長したもので 多少の赤鉄鉱、粘土鉱物、酸化マンガンを含んで根のなくなった跡により管状になっています。


植物の高師小僧

鉱物だけでなく、豊橋地方では 「ホソバ」とか「イヌマキ」の実のことを高師小僧と呼ぶようです。


写真は末広鮨HPより
▲イヌマキの実
イヌマキ(犬槇、犬槙)とはマキ科マキ属の樹木。学名はPodocarpus macrophyllus。
本州関東以西、四国、九州、沖縄、台湾に分布する常緑針葉高木です。
葉が細いので「ホソバ」とも呼ばれます。

浜名湖をはさんでお隣の遠州地方は防風のための「ホソバの生垣」が非常に多い地域ですが、ここでは高師小僧とは呼ばず、「やんぞうこんぞう」と呼んでいるようです。
「やんぞうこんぞう」という名前は不思議な響きを持っていますが、弥蔵が小僧を肩車に載せて居るものということから来ているとのこと。

新たな疑問は
●イヌマキの木の実は形から「小僧」と呼ばれるのは納得できるが、それがどうして「高師」という名前が付いたの?
●遠州地方で呼ばれる「やんぞうこんぞう」の「弥蔵」って誰のこと?
●同様にどうして弥蔵とイヌマキがくっついたの?

高師小僧と似て非なるもの

鬼板

三河地方や知多半島からは鬼板という鉱物がとれます。
鬼板とは同じく褐鉄鉱ですが、板状になっているものです。



▲鬼板は高師小僧より上の地層に存在します。
 ちょうど沼の底が鬼板になり、底より下の土の中にはった植物の根の周りに高師小僧が成長したような姿を思い浮かべるとその配置がわかると思います。



▲鬼板
 酸化鉄ですから、赤錆のかたまりです。

知多半島にある武豊町の歴史民俗資料館ではこの鬼板から鉄を作る実験をしたそうです。



▲鬼板から作られた鉄
 鉄はできることはできたのですが、不純物が多い質の悪い鉄だったのだそうです。



▲簡易の溶鉱炉
 酸化鉄は石炭で燃やすことで還元され、鉄になります。

つぼ石

鳳来寺山自然科学博物館に展示されています。
他の博物館では見たことがありませんので非常に珍しい展示です。



▲つぼ石
 中央に穴があいていますが、貫通はしておらず 壷のようになっています。

展示説明
水酸化鉄質砂礫団塊(すいさんかてつしつされきだんかい)
砂礫層中の地下室にとけていた鉄分が粘土礫を核としてその周囲に沈殿し、
砂礫を膠結して円くかためたもの。
中に粉状のカオリンが入っていたり、小石や(すず石)水が入っていたりする。
このカオリンや水は昔 医薬に用いられ「太一余糧」といわれていました。

「太一余糧」は(たいいつよりょう)  禹余糧(ウヨリョウ)・太乙余糧(たいいつよりょう)・余糧石(よりょうせき)・禹糧石(うりょうせき)とも呼ばれる。
不純な褐鉄鉱あるいは沼鉄鉱のひとつであり、さまざまな形の塊や土状をしている。
本来、余糧とは鉄質の殻の中に粘土質の核を有する鉱物のことであり、薬用には中の粘土を用いたとされている。
漢方では止瀉・止血の効能があり、慢性的な下痢や子宮止血・帯下・痔などに用いられています。

高師小僧は止血の効能があるといわれていたのだそうです。(効果は疑問ですが)


人形石

白い不思議な形の石。このように珍しいものは名前がつきます。
静岡県 富士宮市 奇石博物館に展示されています。

展示説明
(古)人形石、佛石、菩薩石 (現)珪乳石結核
江戸時代から能登の産が知られていた。
第三期中新世のケイソウ化石を含む地層から採集され奇形を呈する。
時には観世音菩薩そっくりのもの、七福神をセットにできるほど千姿万態である。
切断して顕微鏡でみると無数のケイソウ化石がみとめられる。
ケイソウの殻はケイサンからできており、これが溶けてコロイドとなり脱水してオパール質の珪乳石 Menilite (メニライト)となったもの。



▲人形石 石川県能登、珠洲市本村産
 形は高師小僧とは違いますが人間を連想させます

人形石
珪藻土の地層中にできる結核で、能登の人形石(子ぶり石、仏石、菩薩石ともいう)と同質、同成因のものである。
本質はメニライト(Menilite) と呼ぶ一種のオパールであるが、隠岐のものは桁外れに大きい。
形に於いても変化に乏しい。
しかし、珪藻産地にこのような結核を一様に産するのは興味深い。



▲人形石 隠岐西郷町 珪藻採掘場産



▲人形石(砂質石灰質結核)
 フランス パリ郊外


佛頭石

なんとも気持ちが悪い形状ですが、このような石があるのだそうです。
静岡県 富士宮市 奇石博物館に展示されています。

 

▲佛頭石 (石灰華)

展示説明
 温泉が湧いてくる湯口か、またはその近くで炭酸カルシウムが沈殿し、方解石が成長したもので 普通は同心円状と放射状に方解石が晶出していて個々球状の個体をなすが、この標本は晶出の出発点が分散して多数が集合している場合にできる形態である。

参考資料
http://www.geocities.jp/tetu_san/index.htm
http://oshimamd.sakura.ne.jp/kyuukan/heika.htm
http://www3.ocn.ne.jp/~genbudo/
http://www.kiseki-jp.com/index.html
http://www.city.hamamatsu-szo.ed.jp/kibe-e/
http://show0802show.hamazo.tv/e194498.html
https://www.mimaki-family.com/item/list3_5-47-370.html
2007年12月13日 清水 健一

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