渥美古窯 資料編


ここから先は資料編

全国の博物館で見られる渥美、HPで見られる渥美をおっかけてみました。

私は博物館が大好きでよく行くのですが、遠くの博物館で渥美の展示があると 発見したようにうれしくなり
また よくぞここまで・・・と 道のりを創造してしまいます。
どこの博物館でも 立派に展示をしてくれていますので ちょっと誇らしさも感じます。

これだけ細かく調べておくと博物館が楽しくなります。

青森県
●弘前市 中崎館遺跡
 津軽安藤氏と関連性のある中崎館遺跡から渥美甕などが発掘されたとの報告があります。
 ここが渥美の北限でしょう。

岩手県
岩手県からは多くの渥美が見つかっています。
平泉が最も多く、藤原氏との関連が容易に想像がつきます。
また藤原氏の影響を受け、盛岡、釜石市、紫波町、花巻市、奥州市、北上市、金ヶ崎町、奥州市、宮古市、大船渡市、陸前高田市などから渥美が発掘されています。

●盛岡市 一本松経塚
 盛岡市は北上川の水運で栄えた町。海から船をのりかえて上ってくることができますので、重い陶器がここまで運ばれてきているのも納得できます。

中型の壷が「遺跡の学び館」に常設展示されています。
岩手県盛岡市繋(つなぎ)一本松経塚から出土。ただし、伝一本松経塚ということになっています。
昭和20年代の前半,塚の上に自生していた松の根元の石積みの中から出土しました。
一本松経塚は繋温泉神社裏手の湯ノ館(舘)山の西尾根。現在,経塚の所在地には鉄塔が建ち,僅かに塚の一部が残つている程度だそうです。

このあたり でしょう。

平安後期 口径 10.2p、底径 8.6p、器高 25.9p、胴部最大径 18.0p  盛岡市指定有形文化財
渥美はこの博物館でもメイン展示のひとつになっており、ちょっと誇らしく感じます。
この壷は大アラコ窯製で、平泉経由でここに伝えられたものと考えられています。



▲盛岡市一本松経塚出土の渥美灰釉壷

●盛岡市 台太郎遺跡

 写真は遺跡の学び館博物館資料より

▲渥美産小型壷 高さ21.5cm
 基礎工事中に偶然発見されたため、出土状況は不明
 博物館資料に記載があるのですが、詳細は不明です。

●矢巾町 城内山頂遺跡
 渥美の灰釉蓮弁文小型壺(高25.5cm)の渥美が発掘されています。
 詳細不明。

●北上市
・上須々孫館経塚(かみすすまごだてきょうづか)より渥美壷が2点出土しています。

 写真はいわての文化情報大辞典より

▲灰釉小型壺(高21.0cm)岩手県指定有形文化財
 平成15年度に発掘調査された北上市和賀町に所在する経塚からの出土品。

 もうひとつは 灰釉刻文小型壺(残高14.6cm)です。

・南部工業団地内遺跡から渥美壷が1点出土 

 写真は遺跡の学び館博物館資料より

▲刻文小型壺(高24.0cm) 岩手県指定の有形文化財
 北上市南部工業団地内には遺跡があり、6基連接した経塚が見つかっています。平成3年度に発掘調査。

●陸前高田市 越戸内経塚(おっとうち)
 陸前高田市矢作町越戸内に平地に張り出す尾根の突端付近に円形状のマウンドがあり、それが経塚。
 1928年(昭和3年)8月に発掘されました。
 12世紀前半の渥美製品が見つかっています。

●奥州市
・寺ノ上経塚
 奥州市前沢区の寺ノ上経塚からは渥美の高さ46.3cmの灰釉広口壷が出土している報告があります。
 現在奥州市教育委員会所有となっています。

・江刺 益沢院跡 万松寺経塚
えさし郷土文化館 に展示があります。

  写真はえさし郷土文化館、ゆったりと…奥州平泉ぶらり旅HPより

▲渥美焼壺(経壺) 奥州市指定有形文化財
 江刺郡益沢院跡と考えられている増沢地区の万松寺経塚より出土した渥美産の壺。
 12世紀後半のもので、奥州藤原氏3代秀衡の時代にこの場所に経塚が築かれ埋納されたものと考えられます。

こちらのHP には万松寺経塚の訪問記、写真があります。


●釜石市
鵜住居町の川原(かわら)遺跡からも渥美が発見されているという報告があります(詳細不明)
岩手県平泉町
藤原氏ゆかりの平泉からは実に多くの渥美が発見されています。渥美の大消費地。
平泉で出土している陶磁器片の9割は常滑と渥美産のものです。



▲袈裟襷文壷 金鶏山経塚出土 平安時代12世紀
 東京上野の国立東京博物館所蔵に常設展示されているこの名品は平泉町金鶏山経塚から発見されています。
 発見は古く、宝暦9年(1759)。
 胴には渥美独特の襷文を刻んでいます。



▲重要文化財 袈裟襷文壷 平泉遺跡群 柳之御所遺跡
 平泉文化遺産センター所有

 写真は平泉町文化財センターHPより

▲柳之御所跡から出土した渥美の大甕

 写真は奈良国立博物館HPより

▲柳之御所跡から出土した渥美の大甕
 器高29.0cm 口径12.5cm 最大径23.2cm 底径11.5cm 平安時代 12世紀
 奈良国立博物館所有

宮城県
宮城県での渥美の発掘例も多い。

・石巻市 破片
・多賀城 破片の発掘が報告されています。

渥美はむしろ石巻市の水沼窯で語られることが多い。
平泉は物流に北上川を利用しましたが、北上川の河口が石巻で、水沼窯はその周辺にあります。
12世紀前半に開かれた窯跡で、渥美半島で発見される窯跡の構造に酷似し、そこで発見される瓷器系陶器も渥美の様式です。
製品には袈裟襷文壷、甕、片口鉢、壷、羽釜があります。
藤原氏が、渥美焼を地元で作るために渥美の工人を招聘して開窯させたと考えられています。
水沼窯製品の出土は平泉以外では殆ど無く、平泉の「御用窯」的な性格が強いと考えられているようです。
福島県
●福島県会津坂下町(あいずばんげ)雷神山経塚
 雷神山古墳群にある経塚から渥美の灰釉壺が発見されているようですが詳細不明。

●郡山市の荒井猫田遺跡からも多くの渥美が発掘されています。

茨城県
●小美玉町(おみたままち)



▲旧玉里村 雷神山経塚遺物

●桜川市



▲門毛経塚遺跡自然釉大壺 茨城県立歴史館蔵

茨城県水戸市の茨城県立歴史館には渥美窯製品がいくつか保管されています。
その中でも最大のものは門毛経塚遺跡からの発掘品の大壺。高さ57cm 口径43cm 腹径65cm 平安時代・12世紀
これはまた立派でユニークな形。

 写真は「渥美窯製品の流通」小野田勝一より

▲渥美壷 高23.4cm 口径12.7cm 平安時代・12世紀 茨城県立歴史館蔵
 門毛経塚遺跡からはもうひとつ渥美が出土しているようです。


群馬県
●渋川市
 群馬県埋蔵文化センターには渥美壷が2個(以上)あります。

・蓮弁文壷 38.3cm

 写真は「渥美窯製品の流通」小野田勝一より

▲小壷 20cm

埼玉県
●入間市

 写真は博物館HPより

▲入間市博物館に渥美壷の展示があります。
 県指定有形文化財となっている円照寺裏墓跡出土の蔵骨器です。

●吉見町
・金蔵院宝篋印塔出土渥美大甕
 高さ58.4cm、胴部最大幅67.9cm、12世紀 県指定有形文化財
 昭和5年に宝篋印塔の保存修理工事に伴う確認調査で発見された。
 取り上げ時に破損している。

・御所遺跡出土 渥美甕片
 吉見町教育委員会所有

●行田市
 行田市築道下遺跡出土 蔵骨器(渥美壺)

●嵐山町
 埼玉県立嵐山史跡の博物館も渥美が展示されている可能性があります。

●東松山市
 正法寺出土遺物 渥美壷があるようです。


千葉県
千葉県は海に囲まれ東北への航路上にあるため、多くの渥美が発見されています。

●市原市
・片又木遺跡

 写真は下記HPより

片又木遺跡は鎌倉時代の寺社遺跡。市原市街地から南方、ゴルフ場が多く集まる地域の丘陵地帯、海からやや離れた場所にあります。
市原は国分寺や国衙がある地域ですので高級官僚も多くいたことでしょう。
ここから常滑とともに渥美の破片が少数発見されています。
詳細は こちらのHP に記載があります。

・姉崎宮山遺跡(あねさきみややま)

  写真は市原市埋蔵文化財調査センター電脳展示室より

▲姉崎宮山遺跡からの渥美壺 口径19.7cm、最大径33.4cm、高さ36.9cm
姉ア神社は古代の式内社として知られていますが、中世には鎌倉幕府と関係がありました。
境内には小型の円墳が3基あり、近世には塚として利用されていました。このなかの1基である御社2号墳から渥美産壺・片口鉢が発見されました。平安末期の経塚で壺は経の埋納容器として使われました。

・西野遺跡群D地点

 写真は市原市埋蔵文化財調査センター電脳展示室より

渥美産片口鉢 口径32.7cm、最大経32.9cm、底径13.5cm、高さ11.7cm
渥美産の片口鉢は、関東でも一定量が流通していたようですが、出土品は小片が多く、本品のようにほぼ残っているのは稀です。

・上総国分寺

  写真は市原市埋蔵文化財調査センターHPより

▲市原市にある上総国分寺から発掘されている渥美。遠方から珍しく渥美の山茶碗が出土しています。

●鴨川市



▲西郷氏館跡出土 渥美の破片
 鴨川市郷土資料館の展示 

●芝山町/山武市

 

▲山武市(成東町)川崎宝聚寺(ほうじゅじ)関連の墓所から出土 平安末期〜鎌倉時代初
 千葉県芝山町 芝山はにわ博物館に展示があります。

●鋸南町
 下ノ坊遺跡の武士の館から少数の渥美が発掘されたとの記録があるようです。
 岩川遺跡 13〜14世紀の中世館跡から数点の破片

●四街道市
 池ノ尻遺跡(中世城館遺跡)から14世紀後半〜15世紀後半の渥美が9点出土。


東京都
●八王子市 郷土資料館

  

▲白山神社経塚出土 経筒外容器 平安時代末
 1154年(仁平4年)の経巻
 八王子市 郷土資料館に展示がある

●府中市の国衙遺跡からも発掘されたとの記述がありますが、どうもはっきりしません。



▲府中国衙政庁跡は整備が進んでいます。ここを見ても渥美の展示はありませんでした。

●稲城市
 大丸遺跡からも中世の経塚・墓跡が3ヶ所発見され、蔵骨器として渥美壺、経筒などが出土している。

●多摩ニュータウンからも「m」字の窯印がある渥美小壷が発見されているとの記載がありますが、
 周辺の博物館には展示はありませんでした。


神奈川県
●川崎市
 神奈川県川崎市南加瀬からは国宝「秋草文壷」が発見されています。
 現在東京上野の東京国立博物館に常設展示されています。

 

▲国宝 秋草文壷 川崎市幸区南加瀬出土 平安時代 12世紀 東京・慶応義塾

昭和17年(1942年)農道工事中に偶然出土。口縁部内側には上の字のヘラ書きがあります。
ススキ、カラスウリ、トンボをサッと刻んだ模様が最も渥美らしい。

●厨子市
池子遺跡群より渥美の甕の破片が出土しています。
破片は池子遺跡群資料館に展示されていますが、米軍基地内で10日前の予約が必要ですので簡単に見ることができません。

●鎌倉市
鎌倉市は平泉とともに渥美が集中して発見される場所です。
鎌倉時代の権力者が渥美を好んだためでしょう。

・愛知陶磁美術館に展示されている遠清銘短頸壺も「伝鎌倉周辺出土」とされています。

 

▲遠清銘短頸壺(とおきよめいたんけいこ)と呼ばれる壷
 高49.3 12C前 伝鎌倉周辺出土 大アラコ古窯で作られた。
 「従五位下惟朝臣遠清(後略)」銘
 別名「幻の壺」と呼ばれるのだが なぜそう呼ばれるのでしょう?



▲芦鷺文三耳壺は伝鎌倉出土とされる説と埼玉県出土とされる説がありはっきりしません。

・永福寺跡内経塚

 写真は鎌倉デジタル考古博物館準備ページより

▲渥美大甕 神奈川県指定文化財 12世紀後半(鎌倉時代)
 永福寺(ようふくじ)は、1192 年頃源頼朝が奥州平泉を攻め滅ぼした後建てた寺です。経塚はその向かいにある二階堂の正面の山の上。
・若宮大路周辺遺跡
・杉本寺周辺遺跡 鎌倉時代前半の武家屋敷跡から片口鉢
・今小路西遺跡(御成小学校内)鎌倉時代前半の鎌倉最大級の上級武家屋敷跡から
・千葉地遺跡
・藤内定員邸
・泉福寺中世墳墓
   など多くの遺跡から渥美が発掘されています。

●綾瀬市 宮久保遺跡
 宮久保遺跡は旧石器時代から中世にかけての遺跡
 昭和56年〜59年、綾瀬西高等学校建設に伴ない発掘されました。
 藤原顕長銘の破片6点が発掘されているようです。 神奈川県立埋蔵文化財センター蔵

●寒川町 
 相模一ノ宮の遺跡からも渥美が発見されています。

●山北町



▲神奈川県歴史博物館展示の渥美大文字壷 鎌倉時代
 山北町山北中学校の校庭拡張工事のとき、板碑や五輪塔などの石塔類をともなう中世の墳墓が発見されました。
 名古屋市立博物館展示の渥美にも「大」の字のような窯印があるが、こちらの大文字はしっかり大の字。
 でも鏡文字のように左右が逆なので何か特別な記号なのでしょう。



▲小田原市郷土文化館の渥美。
 山北高校出土 南北朝時代?
 同じ地点から多数の壷が見つかっており骨壷に使われたと考えられている。
 との説明文がある。

●横浜市歴史博物館は西の谷遺跡で発掘された平安時代の渥美蝶文鉢を所有しているようですが展示にはありません。

●南足柄市

  

▲御嶽神社裏山経塚出土 渥美窯壷 南足柄市指定文化財
 南足柄市 丸太の森郷土資料館に展示中


山梨県
●南巨摩郡南部町(旧同郡富沢町)篠井山経塚(しのいさんきょうづか)



▲山梨県立博物館(笛吹市)に展示されている藤原顕長銘短頸壺 54.5cm、重量22.5kg。 大アラコ古窯で焼成。
 篠井山(標高1,394m)の山頂には三社の四ノ位明神が祀られ 山麓の成島、楮根、御堂の3集落によって祭祀が行われていました。
 1891年(明治24年)に社の下が盗掘され出土。遺物は行方不明でしたが、1984年(昭和59年)に富沢町徳間で再発見されました。

●笛吹市八代町
 金地蔵遺跡(かねじぞういせき)から渥美が発掘されています。
 高さ44cm 「万」字のくずれた「か」の字の窯印があり、鴫森古窯の壷と類似。

●甲府市
 山梨県立考古博物館に坪沢古窯の小壷が所有されているようですが展示されていません。


静岡県
●三島市
・三ツ谷新田経塚



 立派な藤原顕長の銘入りの壷が発見されています。
 おそらく三島市郷土資料館の所蔵だと思いますが、展示はされていません。

●沼津市
・香貫山経塚



▲香貫山経塚出土の渥美
 高42.2cm 口径17.1cm 底径13.8cm 平安時代 12c 東京国立博物館所蔵

・三明寺経塚



▲沼津市岡_三明寺経塚出土渥美
 鎌倉時代 建久7年(1196) 東京国立博物館蔵
 享保19年(1734年)2月8日、暴風のため倒れた老松の下から偶然発見されました。
 その後昭和15年(1940年)発掘調査が行われ更に遺物が発見され、中央に銅板製経筒の納められた外筒容器6口とそれを囲むように40近い外筒容器が見つかりました。

●伊豆の国市韮山 



▲韮山郷土資料館に渥美の大型の壷の破片の一部が展示されています。

●牧之原市
  相良古墳でも渥美が発掘されているようですが、詳細不明です。

●磐田市

 写真は一の谷中世墳墓群パンフレットより

▲一の谷中世墳墓群 今から800〜400年ほど昔の大規模集団墓地。
 塚墓162基、土坑墓277基、集石墓428基、コの字形区画墓20基 4種類の墓が合計888基発見されています。
 同じ場所に長期間にわたって いろいろな種類の墓が数多く造られているのはたいへん珍しいことです。
 磐田は国分寺や国府があり東海道の重要な宿駅。国府や守護所の役人の墓としてここが使われていました。
 国府や大きな寺と関係する土地に渥美が発見されるのは共通しています。

●浜松市
・山の神遺跡

 

▲浜松市和田町の山の神遺跡出土の渥美片口容器 浜松市博物館に展示。
 手前の椀には渥美特有の模様が刻まれています。

 ・摩訶耶寺古墓 鎌倉時代 12世紀
 ・只木上皆ト遺跡
  などから渥美が発掘されているようですが展示はされていません。


愛知県
愛知県は渥美の生産地であすが、当然消費地としての面も持っています。
この項では消費地としての出土物を集めておきました。

●名古屋市



▲名古屋市博物館の渥美古窯の展示
 この博物館の渥美古窯展示は充実しています。  他の窯場との比較で猿投から渥美への技術の流れとしてとらえ、展示されているところがさすが愛知県です。

 大阪から伝わった須恵器の製造技術は尾北窯から猿投窯に伝わり発展。粘土と燃料を求めて瀬戸、美濃、湖西、渥美、常滑へと広がり、結果 愛知県から岐阜県、静岡県にかけて窯場は面として広がっていることを展示説明しています。

●一宮市木曽川町



▲緻密な線刻文がある破片 
 愛知県一宮市木曽川町にあった木曽川町郷土資料館の展示(既に閉館)
 渥美得意の線刻文ですが、ここまで緻密な連続的な模様は他では見られません。

●豊田市足助町
 足助資料館

 

▲この壷は昭和30年頃まで民家の土間に豆が入れて置いてあったとか。
 その後 本多静雄氏(豊田市の本多記念館の本多氏)が所有し渥美古窯の研究の端緒となったものとの説明があります。
 この壷にも大の字の窯印があります。

●新城市
 鳳来寺山鏡岩下遺跡
 「鏡岩」というのは遠くからも見える垂直の岸壁なのですが、いかにも神が宿りそうな雰囲気。
 こうした所に経塚は作られます。
 1959年の伊勢湾台風により杉の木が倒れ根元から壷が発見されました。
 他の遺跡でも伊勢湾台風の土砂崩れをきっかけに発掘作業が始まったということがあるが、こうしてみると伊勢湾台風が渥美にはたした貢献はけっこう大きい。


・生産地の渥美失敗品

 写真は奈良国立博物館HPより

奈良国立博物館所蔵の渥美壷
 伝渥美(あつみ)半島出土。焼成の際、窯体内に舞い上がった降灰が表面に厚く付着し荒れています。
 使えない失敗作として、窯場の近くに捨てられたもの。渥美の13世紀前半頃の製品と考えられています。

岐阜県
●揖斐郡谷汲村

 写真は愛知県陶磁美術館HPより

▲灰釉袈裟襷文三耳壺(かいゆうけさだすきもんさんじこ) 高さ25cm
 横蔵寺(よこくらじ)裏山出土


三重県
三重県からも多くの渥美が発掘されています。車で移動すると豊橋-名古屋-四日市-津市と ずいぶん時間がかかるが、船ならば伊勢湾の対岸なのですぐ近くとなります。
対岸は見ることもできるので、不安はない。船を使い美製品が流通していたことは納得がいきます。

●伊勢市
・国宝経筒外容器



▲金剛證寺蔵

表面には以下の文章が刻まれています。
奉造立
如法経甕壱口事
右志者為現世後生安穏太平也
承安三年 八月十一日
伊勢大神宮権宜正四位下
荒木田神主時盛
□□散位 渡会宗常

・伊勢市郷土資料館 (閉館)



▲「保元元年六月」銘入り経塚陶製外筒 滝ノ口15号経塚

  

▲左:大型甕 津村町中ノ垣外遺跡で検出されたもの 平安時代の末葉頃の土器。
 中:鳥刻絵文壷 渥美らしい線刻文の破片。鳥が描かれています。
 右:山茶碗なども展示されていましたがこれもおそらく渥美製でしょう。



▲小町塚経塚出土瓦経 伊勢市郷土資料館展示
 宇治山田高校に隣接する墓地の中にあった経塚。
 現在では現代の墓地になっており、何も残されていない。
 陶製光背、数百枚の大量の瓦経が出土している。承安4年(1174年)に限られる。
 江戸時代から盗掘され瓦経は四散しているが、現在までに大日経118枚、金剛頂経41枚、蘇悉地経83枚、法華経140枚、無量義経16枚、観普賢経14枚の総数412枚もの瓦経が判明しています。

瓦経が大量に発掘された小町塚経塚は このあたりでしょう。

こちらは名古屋市立博物館の小町塚経塚の瓦経展示。なにせ江戸時代に大量に発見されたものですから散逸し、あちらこちらに展示があります。



▲瓦経 渥美窯 こちらの瓦経は
 経文の永遠性を求めて陶器でそれを作る。
 三重県伊勢市小町経塚出土 平安時代後期 1174年

・この他 伊勢市では 菩提山経塚 や 天神山から出土した渥美があるようですが、詳細不明


滋賀県
 写真は愛知県陶磁美術館HPより

▲蓋付経筒外容器 高さ31.3cm
伝滋賀県比叡山延暦寺
愛知県陶磁美術館所有

如法経
保安三年八月十五日
けち(結)に大小求處也
ふかい□□ニ求き

と刻銘されている
保安三年は1122年であり平安時代末期と特定できます。


奈良県


奈良県橿原市 橿原考古学研究所付属博物館では実物は展示されていませんが
大和で渥美が発掘されているとの説明がちょっとありました。


京都府
●長岡京市
 埋蔵文化財センター



▲海印寺跡
 長岡京は猿投古窯の製品の出土が多いそうですが、渥美も出土しているようです。

●京都市



▲花背別所経塚 経筒外容器 刻線花柄文
京都市の北山にある「鞍馬寺」のの門前からさらに山道をのぼり花背峠を越えた北側、標高700m付近の尾根筋にあります。
大正時代から昭和初期ににかけて植林作業中に偶然発見された。1箇所ではなく複数の経塚(1〜7号)からの出土品です。
福田寺が所有している。


大阪府
●大東市
 歴史民俗資料館

 

▲ここでは渥美の壷と皿が展示されています。
 この博物館は竜骨車、古墳時代の倉庫の木製扉などすばらしい展示があるのですが、それらと並んで渥美が展示されているのは誇らしい思いです。


和歌山県
●和歌山市
 県立博物館

 

▲本宮経塚出土陶製外筒 経筒の中では最大のもの
 文政8年(1825年)に熊野本宮の付近から経塚が発見されました。
 側面には7行51文字が刻まれており、保安2年(1121年)に願主 良勝と 壇越泰親任が大般若経600巻を50巻づつに分けてこの地に奉納したことが記されています。
 備崎経塚(そなえざききょうづか)は本宮と熊野川の対岸にあたるが、本宮経塚と同一のものかもしれません。

熊野山如法経銘文
大般若経一部百巻
白瓷箱十二合
箱別五十巻
保安二年歳次辛丑十月日
願主沙門良勝
檀越散位秦親任

ちなみに和歌山県立博物館では経塚遺跡の断面が復元されており構造がよくわかります。

●高野山
和歌山県高野山奥の院出土の経筒外容器
年代が刻まれている最古のもので永久2年(1114年)。この頃から渥美に窯が築かれてきたのでしょう。

●白浜 経塚出土



▲袈裟襷文四足経筒外容器 平安時代末期 12世紀
 伝・和歌山県白浜出土(経塚)  蓋の中央部には剥落の痕跡があり宝珠などの造形が付けられていたと考えられている。
 愛知県陶磁資料館で常設展示されています

●伝・和歌山県那智出土(経塚)



▲四耳蓋付経筒外容器
 平安時代末期(12世紀)高さ31.5cm
 愛知県陶磁資料館で常設展示

●そのほか那智勝浦の青岸渡寺(せいがんとじ )、新宮港速玉大社の裏山の経塚からも渥美が発掘されているようです。


兵庫県
●神戸市
 福原京 祇園遺跡



▲祇園遺跡 中甕 「キ」の窯印がある
 祇園遺跡は治承4年(1180年)の「福原遷都」に際し、安徳天皇の内裏となった平清盛の屋敷「福原京」の中枢部分と推定されます。

●尼崎市
 尼崎市立文化財収蔵庫



▲破片の展示 大物(だいもつ)遺跡からの発掘品
 大物遺跡からは他に中国各地の高級中国陶磁の破片が大量に発見されています。
 博多に荷揚げされた磁器が瀬戸内海を通過して京都に運ばれる途中、神崎川河口の港である大物に荷揚げされたと考えられます。
 そのようなそうそうたる中国陶磁に混じって渥美も見つかることは渥美の地位の高さを表しています。

愛媛県
●松山市



▲石手寺裏山の経塚から出土の袈裟襷文小壷

広島県
●福山市
 草戸千軒遺跡 河川敷にある遺跡ですが 蓮弁文壷片が1片出土しています。

●廿日市市
 菩提院遺跡出土遺物 渥美焼壺 廿日市市教育委員会



▲宮島の遺跡から発見された 常滑または渥美の陶器破片


福岡県
福岡県でも渥美が発見されています。しかし九州は渥美の資料がHPではほとんど見つかりません。
九州ではこの時代、中国磁器が大量に輸入されて高級品は豊富にあったので考古学上の価値は少なくなってしまうのかもしれません。
私はそのような中国の名品に伍して九州に持ち込まれた渥美の価値に驚くのですが・・・

・福岡県文化財センターに大壷が3点保存されているようです。
・大宰府政庁の遺跡からは 渥美の大壷の破片が発掘さているようです。
・飯塚市でも 渥美の壷の出土があるようですが いずれも詳細不明です。

愛知県の博物館での渥美古窯の展示

渥美古窯は全国区。東京国立博物館をはじめ日本のあちらこちらの博物館に名品が堂々と展示されています。
しかし集中してみようとすればやはり愛知県の博物館は外せません。
地元愛知県の博物館にどのような渥美が展示されているかまとめてみました。
最も充実しているのは地元の田原市博物館と田原市渥美郷土資料館の2つ。

田原市渥美郷土資料館
  

▲陶製五輪塔
石製の五輪塔は全国各地の博物館に展示がありますが 陶製は非常に珍しい。
窯場から出土したのは唯一の例。発掘品としては他に湖西古窯、信楽古窯製品、北九州市出土品、などがあります。
仏具などの特注品を生産した渥美古窯らしい。
瓦塔も発見されているが、瓦塔については別項目でまとめ予定



▲東大寺瓦
 東大寺瓦窯から発掘された瓦が展示されています。



▲分焔柱
 渥美の窖窯の特徴になっている分焔柱が博物館のシンボルとして展示されています。

愛知県田原市博物館


▲さすがに渥美古窯の生産地の中心都市。大型の渥美の甕がズラーっと並んでいます。

やしの実博物館
博物館自体は小さいのですが 渥美古窯の展示ではなかなか充実しています。

  

▲渥美展示
 壷と山茶碗の展示。特に山茶碗の展示は逆に珍しい。



▲東大寺瓦
 やしの実博物館にも東大寺瓦が展示されています

田原市赤羽 赤羽根歴史民俗資料館 (閉館)
博物館の展示では大型の壷や美しい線刻文の甕がほとんどですが、渥美古窯の製品の8割は山茶碗と呼ばれる茶碗・小皿などの日常雑器の類です。そのような渥美の山茶碗を中心に展示した博物館です。

かつてここには文字を刻んだ壷の破片が展示されていた記憶があるのですが、2回目の訪問では既になくなったいました。

  

▲この博物館の展示は「法蔵寺古窯」「夕古窯」などからの山茶碗が展示の中心。中央のものは斜面である窯の中に積んだ茶碗を置くための焼台と呼ばれる窯道具。

山茶碗を見ても まあ確かに単調なのです、すぐ飽きてしまいます。あまり面白い展示にはなりえませんね。

ここは小学校の古い校舎を活用した博物館だったのですが、訪れる人も少なくとうとう閉館になってしまいました。
今は収蔵庫のようになっているようですが、逆に収蔵庫として多くの渥美製品が集まっているようです。機会があれば再訪してみたい博物館です。

名古屋市博物館
  

▲名古屋市博物館の渥美
 左は伝田原市大久保出土の鎌倉時代13世紀 連弁文壷
 右は鎌倉時代初期(13世紀)と解説がある。「大」とも読める窯印が印象的。
 大の字の横棒が切れており大と書こうとしたとは思えない。

豊田市 棒の手会館


▲この博物館は祭礼の「棒の手」と「飾り馬(オマント)」のすばらしい展示があるのだが
 それとは関係のない渥美の大甕がさりげなく展示されている。やけに白いのは生焼けだからだろうか?

豊田市民芸館 本多記念館
私が行った時には渥美は展示されていませんでしたが、多くの渥美の資料を所有されているはずなので、タイミングがあえば名品を見ることができるでしょう。

瀬戸市 愛知県陶磁美術館
多く所蔵されているようですが、その中のいくつかがローテーションで常設展示されています。
私が行ったときは3つだけの展示でした。



▲灰釉蓮弁文壷
 田原市 加治坪沢窯跡出土 平安時代末期 12世紀



▲四耳蓋付経筒外容器 陶製経筒外容器 高さ31.5cm
 伝・和歌山県那智出土(経塚)



▲灰釉袈裟襷文壷
 平安時代末期 12世紀



▲灰釉蓮弁文壺
 平安時代末期 12世紀 高さ40.5cm



▲灰釉瓶子(へいし)
 鎌倉時代(13世紀)高さ36.5cm
 大陸からの輸入陶磁のコピー品。13世紀に入り力が衰えてきたためか。
 日本独自の様式を創出した力のある渥美は中途半端な大陸の様式の模倣品など作らなくてもよいのに・・と思ってしまうが、現代思考なのでしょう。
 多彩な渥美の製品のひとつととらえるべきでしょう


その他


▲二筋壺
 陶製 自然釉 渥美窯 器高24.5 口径11.0 最大径17.5 底径10.4 平安時代 12世紀
 奈良国立博物館

もっと知りたい人は

田原市渥美町 郷土資料館
田原市 博物館
瀬戸市 愛知県立陶磁美術館

  に行って 学芸員の話を聞いてみよう

参考資料

ホームページ
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/2091/index.html irihikoさん
http://www.taharamuseum.gr.jp/ 田原市博物館
http://www.city.kawasaki.jp/880/page/0000000052.html 川崎市教育委員会
http://www.aichi-c.ed.jp/index.htm 愛知エースネット
http://www.iwate-np.co.jp/index.html 岩手日報
http://www.town.hiraizumi.iwate.jp/scripts/hiraizumi/kanko-rekisi/lib/bunsen_iseki/2a.html 平泉町文化財センター
http://www.kdcnet.ac.jp/bigaku/Researc/051207touji04.files/frame.html#slide0028.html
http://www.pref.iwate.jp/~hp0909/koto/iseki/iwate/iwate.htm
http://www.pref.iwate.jp/~hp0910/tayori/132p7.pdf
http://park.geocities.jp/satoyamakadoge/sub18.htm
http://www.mboso-etoko.jp/kyoudo/gyousei/cyusei_01.html
http://www.echiba.org/pdf/kiyo/kiyo_divi/kd016/kiyo_016_12.pdf
http://www.pref.iwate.jp/~hp0909/download/nenpou8-4.pdf
http://www.taharamuseum.gr.jp/exhibition/ex131019/
http://www.town.hiraizumi.iwate.jp/scripts/hiraizumi/kanko-rekisi/lib/bunsen2a_touki.html
http://www.town.yoshimi.saitama.jp/guide_konzouin.html
http://www.ranzan-shiseki.spec.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=237
http://www.city.iruma.saitama.jp/bunkazai/bunkazai/ensyoji_zokotsuki.html
http://www.shonan-it.org/web3d/object/atumi/atumitop.html
http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=3137
http://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/profile/bunkazai/shiseki/sanmyouji.htm
http://www.kyohaku.go.jp/jp/dictio/data/kouko/41hanase.htm
http://www.city.ichihara.chiba.jp/~maibun/isekifile174.htm
http://blogs.yahoo.co.jp/daikai31/MYBLOG/yblog.html
http://www.city.ichihara.chiba.jp/~maibun/kokomadewakatta/2/kazusakokubunsoujiten11.htm
http://www.asahi-net.or.jp/~ab9t-ymh/inagi_folder/inagiSISEKI.html
http://www.taharamuseum.gr.jp/exhibition/ex120602/index2.html
http://www.taharamuseum.gr.jp/exhibition/ex080711/index3.html
http://dangonotare.blog.eonet.jp/
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20131222_2
http://burarioshu.exblog.jp/17976720/
http://www.taharamuseum.gr.jp/exhibition/ex120602/index2.html
http://www2s.biglobe.ne.jp/~karasawa/futagawa/ko04/index.html
http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/catalogue/religious/mouri-50.htm
http://d.hatena.ne.jp/PANALI/20071231
書籍
「伊良湖No.10」1979年発刊
沢田由治著 日本陶磁大系7 常滑渥美越前珠洲 1989年平凡社
佐々木達夫著 日本史小百科 陶磁 平成3年東京堂出版
皿焼古窯館 パンフレット
陸前高田市史編集委員会編 1994 「陸前高田市史第2巻」
旧前沢町教育委員会 1998 「町内遺跡詳細分布調査報告書T 古城・白山地区
石巻市教育委員会 1984 「水沼窯跡発掘調査報告」 第1集
渥美窯の特殊製品 安井俊則
三重県史のHP「歴史の情報蔵」
2014年1月26日 清水 健一

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